秘密を抱える楽しさと、共有する楽しさ

マーダーミステリー(以下、マダミス)とテーブルトークRPG(以下、TRPG)は、どちらも「キャラクターになりきって会話をしながら物語を進める」という共通点を持っています。そのため、普段TRPGを遊んでいる方がマダミスを始めたり、逆にマダミスからTRPGに興味を持ったりするケースが増えています。

しかし、実際に遊んでみると「情報の出し方や秘密の抱え方」について、プレイ感覚の違いに戸惑う方が少なくありません。

  • TRPGの感覚で全員に自分の情報をオープンにしてしまい、推理の駆け引きがなくなってしまった
  • マダミスの感覚で秘密を最後まで隠し通した結果、TRPGのシナリオ進行が止まってしまった

このようなすれ違いは、それぞれのゲームが「何を目的として情報を扱う構造になっているか」の違いから生まれます。今回は、セッション現場で迷いがちな「情報共有のさじ加減」について、具体的な考え方を整理してみましょう。


マダミスにおける情報開示:駆け引きとリスク管理

マダミスの多くは、プレイヤー全員が事件の関係者となり、会話や調査を通じて真相に迫るゲームです。ここで重要なのは、**「全員が必ずしも同じゴールを目指しているわけではない」**という点です。

なぜ最初から全てを話してはいけないのか

マダミスのキャラクターシートには、犯人であるかどうかにかかわらず、それぞれ「他人に知られたくない過去」や「個人的な副目標」が書かれていることがよくあります。

TRPGの協力感覚のまま、開始直後に「自分のシートにはこう書いてあります」と全て開示してしまうと、以下のような問題が起こりやすくなります。

  • ゲーム内の疑心暗鬼や駆け引きという醍醐味が薄れる
  • 個別の目標(サブミッション)の達成が難しくなる
  • 犯人役のプレイヤーが嘘をつく余地がなくなり、一方的な展開になる

マダミスでの情報開示の判断基準

マダミスで情報を出す際は、次のようなステップで判断するのがおすすめです。

  1. 対価を求める(ギブ・アンド・テイク) 「私の知っているこの情報を教えるので、あなたが現場で拾ったアイテムの情報を教えてほしい」というように、相手との交渉材料にします。
  2. 信頼できる相手を段階的に選ぶ 密談時間などを利用し、状況証拠から「この人は犯人ではなさそうだ」と判断できた相手にだけ、少しずつ踏み込んだ情報を明かしていきます。
  3. タイムリミットを意識する 議論の終盤、このままでは無関係な人が疑われてしまいそうな局面では、身の潔白を証明するためにあえて隠していた秘密を公開する勇気も必要になります。

TRPGにおける情報開示:全員で物語を成立させる協力

一方、一般的なTRPG(協力型シナリオ)において、プレイヤーは「ひとつの困難に立ち向かうチーム」です。秘密や個別目標が存在するシステムであっても、最終的な目的は**「プレイヤー全員で面白い物語を紡ぎ、シナリオを完走すること」**にあります。

過度な抱え込みが起こす問題

マダミスに慣れた方がTRPGの秘密(秘匿ハンドアウトなど)を厳格に隠し続けると、次のようなトラブルが起きることがあります。

  • 重要な手掛かりを誰にも共有しないため、次の調査先に進めない
  • 「自分は怪しい行動をしなければならない」と頑なになり、他のPC(プレイヤーキャラクター)との会話を拒絶してしまう
  • ゲームマスター(GM)が想定している解決ルートから外れ、時間内にセッションが終わらなくなる

TRPGでの情報開示の判断基準

TRPGでは、「PL(プレイヤー)としての視点」と「PC(キャラクター)としての視点」を分けて考えることが大切です。

  • PL視点での配慮 「この情報は早めに共有しないとシナリオが進まないな」と感じたら、キャラクターのセリフとして伝えるか、システムで許されていれば相談フェーズで「実はこういう情報を持っています」とPL発言で伝えて構いません。
  • PC視点での葛藤の演出 キャラクターとしては言いづらい秘密であっても、「言い淀みながらも仲間を信じて打ち明ける」「口を滑らせてバレてしまう」といったRP(ロールプレイ)を行うことで、物語としての見せ場を作ることができます。

TRPGにおける秘密は、「相手を出し抜くための武器」ではなく「物語をドラマチックにするための舞台装置」と捉えると、開示のタイミングが掴みやすくなります。


一度きりの体験と「感想戦」の楽しみ方の違い

情報の扱い方が異なれば、セッションが終わった後の「感想戦(振り返り)」の楽しみ方にも違いが現れます。

マダミスの感想戦:パズルの答え合わせ

マダミスは真相を知ってしまうと二度と遊べない「一度きりの体験」です。そのため、セッション終了後の感想戦は、全員が隠していた本当の事情や、誰がどのタイミングで嘘をついていたのかを解き明かす「答え合わせ」の時間になります。「あのとき、実はこう思って動いていた」という裏話を持ち寄ることで、物語の全体像が初めて完成します。

TRPGの感想戦:選択のドラマを味わう

TRPGもシナリオの結末を知るという意味では一度きりの体験ですが、同じシナリオであっても「別のキャラクターならどう動いたか」「ダイスの出目が違えばどうなっていたか」という広がりがあります。感想戦では、正解・不正解を競うのではなく、「あの場面の掛け合いが最高だった」「あの決断で物語が大きく動いた」という、自分たちだけのセッションの余韻を語り合う時間が中心になります。


まとめ

マダミスとTRPGは似ているようで、ゲームとしての焦点が異なります。

  • マダミス: 推理と駆け引きのために、情報は「戦略的にコントロールするもの」
  • TRPG: 全員の協力とドラマのために、情報は「共有して物語を動かすもの」

どちらの文化が良い・悪いということではありません。今自分が遊んでいるゲームがどちらの性質を持っているかを意識し、卓の仲間と一緒に心地よい距離感でセッションを楽しんでみてください。