はじめてのゲームマスター(キーパー)を担当するとき、「プレイヤーからシナリオに書かれていない行動を提案されたらどうしよう」と不安になる方は少なくありません。
「壁を登りたいと言われたらどう判定する?」「NPCを縛り上げると言い出したら?」「突然関係のない店に入ろうとしたら?」と、あらゆる可能性を先回りして考え、それぞれに対応する回答メモを作ろうとして準備が何日も終わらなくなってしまうのは、真面目なGMほど陥りがちな罠です。
TRPGの魅力はプレイヤーの自由な発想にあります。どれだけ時間をかけて膨大な対応表を作ったとしても、実際のセッションでは準備していない角度からの行動が必ず飛び出します。この記事では、行動の全パターン予測を手放し、当日のどんな提案にも落ち着いて向き合える「3つの判断軸」の決め方を解説します。
なぜ「行動の全パターン」を準備してはいけないのか
プレイヤーの行動をあらかじめすべて網羅しようとすると、準備時間が膨大になるだけでなく、セッション本番でも悪影響が出やすくなります。
あらかじめ用意したマニュアルがあると、GMの意識は「用意した選択肢のどれに当てはめるか」に向いてしまいがちです。その結果、プレイヤーのユニークなアイデアを無意識に自分の想定ルートへ押し戻してしまい、双方にとって窮屈なセッションになってしまうことがあります。
目指すべきは「すべての行動の正解を用意しておくこと」ではなく、「その場の提案を公平に裁定するための物差しを用意しておくこと」です。物差しが手元にあれば、未知の提案が飛んできてもその場で落ち着いて処理できます。
準備しておくべき「3つの判断軸」
セッション準備の段階では、細かい分岐を書く代わりに、次の3つの基準だけをメモ帳に書き留めておきましょう。
1. 物理的・世界観的に可能か(納得感の基準)
提案された行動が、その世界の物理法則やキャラクターの能力、現在の状況に照らし合わせて無理がないかを確認します。
- 人間の力で動かせる重さか、届く高さか
- 世界観の常識から外れていないか(現代劇で突然ビームを出そうとしていないかなど)
もし「どう考えても不可能」なら、ダイスを振らせるまでもなく「それは状況的に難しいです」と説明して断って構いません。逆に「日常的な動作の範囲」であれば、判定なしでそのまま成功にしてしまって問題ありません。判定が必要になるのは「できるかもしれないが、失敗するリスクもある」という中間のケースだけです。
2. 他のプレイヤーの見せ場を奪わないか(公平性の基準)
突飛な提案を受け入れる際、もっとも注意したいのが「別のキャラクターの専門分野を侵害していないか」という点です。
たとえば、鍵開けが得意なキャラクターがいる場面で、別のキャラクターが「怪力でドアを破壊して一瞬で開けたい」と提案したとします。これを安易に許可すると、鍵開けを準備してきたプレイヤーの活躍の機会が消えてしまいます。
提案を採用する前に、「その行動を認めると、パーティ内の役割分担が崩れないか」を一瞬だけ考えます。もし誰かの見せ場を奪いそうなら、「ドアは非常に頑丈で壊せそうにありませんが、鍵なら細工できそうです」と促し、本来の担当者にパスを回す判断を下します。
3. 物語が停滞しないか(進行の基準)
プレイヤーの突飛な行動によって、メインの目的から完全に脱線してしまったり、調査が手詰まりになったりしないかを見極めます。
もし提案された行動がシナリオの本筋と関係ない寄り道(「近くのコンビニで買い食いしたい」など)であれば、邪険に切り捨てる必要はありません。「買い物ですね、では肉まんを買って食べ終わったところで、目的地の前に戻ります」と、描写を短く切り上げてメインの進行に復帰させます。すべてをイベント化せず、テンポよく流す勇気を持つことが大切です。
想定外が起きたときの「3ステップ対応」
準備段階で上記の3つの軸を頭に入れたら、本番で想定外の提案が飛んできたときは次の手順で処理します。
ステップ1:プレイヤーの「目的(意図)」を聞く
プレイヤーが突飛な行動を口にしたとき、すぐ可否を答える必要はありません。まずは「その行動で、何を達成したいですか?」と尋ねてみてください。
たとえば「部屋の壁を壊したい」と言われた場合、プレイヤーの真の意図は「隣の部屋に隠し扉がないか調べたい」だけかもしれません。意図さえ分かれば、「それなら壁を壊さなくても、通常通りの探索判定で調べられますよ」と、シナリオの想定範囲内の処理に誘導できます。
ステップ2:適した技能や判定を相談して決める
意図が理にかなっており、先ほどの3つの判断軸にも反していなければ、判定を行います。 ルールブックやシナリオに載っていない行動の場合、「一番近そうな技能」をGMが指定するか、プレイヤーに「使えそうな技能はありますか?」と尋ねてみましょう。お互いが納得できる技能であれば、厳密な正解にこだわる必要はありません。
ステップ3:迷ったら「1分間の小休止」を取る
どうしても判断に迷ったときは、無理にその場で即答せず、卓を止めて構いません。 「ちょっと処理を確認したいので、1分だけ考えさせてください」と正直に伝え、マイクをミュートにして深呼吸しましょう。プレイヤーはGMが悩んでいる時間を責めたりしません。焦って不本意な裁定を下すより、一息ついて「3つの判断軸」に照らし合わせるほうが、結果としてセッション全体の満足度は高くなります。
まとめ:余白があるからこそセッションは面白い
プレイヤーの行動をすべて先読みしてガチガチの台本を用意することは、不可能なだけでなく、TRPG本来の即興性を削いでしまうことにもつながります。
準備の段階で決めておくべきなのは、行動ごとの個別対応ではなく、「可能かどうか」「公平かどうか」「話が進むかどうか」というシンプルな裁定基準だけです。対応マニュアル作りに費やしていた時間を削り、気持ちに余裕を持って卓当日を迎えましょう。想定外の提案を楽しめる心のゆとりこそが、良いセッションを作る一番の力になります。
